(2019.9.23)
代表医師の中嶋です。
今回は最新の論文をご紹介します。
急性期脳動脈閉塞に対する経皮経管的脳血栓回収療法(以下「血栓回収療法」といいます。)は,これまでに多くの知見が蓄積され,我が国の医療現場でも広く行われています。
治療技術の進歩や,新たな知見の内容に対応し,適切な症例選択と手技を促すために,我が国では2018年3月,「経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第3版」が発表されました。
同指針では,血栓回収療法の適応として,発症6時間以内の治療開始を強く勧めています。
最終健常確認時間から6時間を超えた場合は,内頚動脈または中大脳動脈M1部の急性閉塞が原因と考えられる脳梗塞に限り,いくつかの条件※を満たすことで,血栓回収療法を24時間以内に開始することが推奨されています。
(※詳しくは「経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第3版」をご参照ください。同指針はインターネットで閲覧可能です。)
急性期脳梗塞の原因として,頭蓋外(主に頚部)で内頚動脈閉塞を認めることは少なくありません。過去の論文では,脳血管撮影で内頚動脈の完全閉塞を確認された104例中,頚部の閉塞が68例であったと報告されています(脳卒中 1985; 7: 394-401)。
しかし,上記適正使用指針の根拠となった海外のDAWN試験とDEFESE 3試験は,いずれも主に頭蓋内内頚動脈の閉塞例を対象としています。
今回紹介する論文は発症6~24時間後の頭蓋外内頚動脈閉塞例に対する血栓回収療法の結果を報告しています。
掲載雑誌:Neurol Med Chir (Tokyo)※
(※日本脳神経外科学会の学会誌です)
タイトル:Outcomes of Endovascular Thrombectomy Performed 6–24 h after Acute Stroke from Extracranial Internal Carotid Artery Occlusion
著者:Okumura E, Tsurukiri J, Ota T, 他
掲載号数・ページ:2019; 59: 337-343
【論文内容】
過去3年間に経皮経管的脳血栓回収療法を行った586例のなかで,内頚動脈閉塞の24例(頭蓋外14例,頭蓋内10例)を対象とした。
発症90日後の機能的自立例(mRS 0~2)は,頭蓋外閉塞例で36%,頭蓋内閉塞例で40%,発症90日後の死亡率は,前者で7%,後者で10%との結果であった。
この結果から,血栓回収療法は,発症6~24時間後の頭蓋外内頚動脈閉塞による脳梗塞に対しても,頭蓋内内頚動脈閉塞と同等の機能予後が期待できると結論付けられた。
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(解説)
内頚動脈閉塞による急性期脳梗塞は,かつて,rt-PA静注療法や血栓回収療法といった,再開通療法が行われていなかった時代,死亡例が5割,社会復帰不能例が4割を占め,社会復帰可能例はわずか1割といわれていました(脳卒中 1985; 7: 394-401)。
今回紹介した論文の意義は,内頚動脈閉塞例のなかでも約半数を占める頭蓋外での閉塞例に対しても,血栓回収療法は,頭蓋内閉塞例と同等の効果が得られることを示したことです。
かつて,死亡率が50%であった内頚動脈閉塞例も,いまとなっては血栓回収療法によって,死亡率は7~10%まで低下したのです。
治療技術の進歩がもたらす恩恵の大きさは計り知れません。
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