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MRAで「未破裂脳動脈瘤はない」と言い切れるのか?


1.未破裂脳動脈瘤のスクリーニング検査

未破裂脳動脈瘤のスクリーニング検査を受け、医師から「脳動脈瘤なし」と診断を受けたにもかかわらず、その後、脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血を発症し、死亡あるいは重篤な後遺障害により寝たきりとなってしまった。そのような患者さんの例を脳神経外科医であれば一度は耳にしたことがあります。また、患者さんのご家族から相談を受ける弁護士さんもいらっしゃるかと思います。

そこで、今回は、未破裂脳動脈瘤のスクリーニング検査であるMRAを中心に解説します。

脳動脈瘤の診断の基本はカテーテル法による脳血管撮影 (digital subtraction angiography) です。この脳血管撮影は、脳血管の形態を最も詳しく評価することができます。その一方で、この検査は動脈穿刺や血管内のカテーテル操作を要し、検査を受ける患者さんにとっては血管損傷による出血や脳梗塞といった様々なリスクを伴います。また、脳血管撮影の安全性を考慮し、通常は検査のための入院が必要となります。そのため、一般的には未破裂脳動脈瘤のスクリーニング検査として脳血管撮影が行われることはありません。一体どのような検査が行われているのでしょうか。現在、わが国では未破裂脳動脈瘤のスクリーニング検査として、非侵襲的に実施できるMR angiography (MRA) が広く普及しています。

2.未破裂脳動脈瘤の見落としが起こる要因と対策

MRAによる未破裂脳動脈瘤の見落としはどのような要因で起こるのでしょうか。次の2つが主な要因として考えられます。

1)MRAを見慣れていない医師が読影した

2)検査機器の検出限界

1)については、対策として、MRAを見慣れている医師(例えば脳神経外科専門医)によるチェックを必須とすることで、見落としのリスクを大幅に低減できるといえます。これは医療機関側としても、導入することがそれほど困難ではない見落とし防止策です。

臨床現場で問題となるのは、2)検査機器の検出限界についてです。「脳卒中治療ガイドライン2015」には、未破裂脳動脈瘤のスクリーニングに関して、「そのスクリーニングには非侵襲的画像検査であるMR angiography (MRA)(1.5T以上) を用いることが望ましいが、MRAでは十分な情報が得られず、さらなる精査が必要なときはCT angiography (CTA) を行うよう強く勧められる (グレードA)」と記載されています。

したがって、未破裂脳動脈瘤のスクリーニングを行うMRAの機器としては、1.5T以上の性能が求められています。このT (テスラ) とは機器から発生する静磁場を表し、一般的にはこの数値が高いほど詳細な画像が得られるといわれています。つまり、1.5Tに満たない機器でのスクリーニングは未破裂脳動脈瘤の見落としにつながる恐れがあります。しかし、MRAの機器は非常に高価で、医療機関が新規に購入するのは容易ではありません。そのため、機器の性能上、1.5Tに満たないMRAしか実施できない医療機関では、患者さんの利益を最優先に考え、未破裂脳動脈瘤のスクリーニングについては1.5T以上のMRAを実施できる他の医療機関で検査を受けるように患者さんへ説明するべきです。

さらに、1.5T以上のMRAであっても、未破裂脳動脈瘤の見落としにつながる大きな要因があります。それは脳動脈瘤の「大きさ」です。

前出の「脳卒中治療ガイドライン2015」にも引用されているWhiteらの文献1)によると、脳動脈瘤に対するMRAの感度は、動脈瘤のサイズが3 mm以上では94%ですが、3 mm未満では38%と大幅に低下します。つまり、3 mm未満の脳動脈瘤に関しては、MRAを行っても検出できないことが多いのです。

MRAで検出できない脳動脈瘤は、いくらMRAを見慣れた医師がくまなく探しても発見できないので、正確には「見落とし」とはいえません。ただし、患者さんにMRAの結果を説明する際、医師が「脳動脈瘤はありません。」と説明することは非合理的です。正しくは「大きさが3 mm以上の脳動脈瘤が存在する可能性は5%程度です。また、3 mm未満の脳動脈瘤については存在していても4割程度しか検出できません。」と説明するべきでしょう。

それでは、くも膜下出血や未破裂脳動脈瘤の家族歴のある患者さんが、MRAよりも詳しい検査を希望した場合や、MRAで脳動脈瘤の存在が疑われるが不明瞭で判断が難しい所見を認めた場合、医師はどうしたらよいのでしょうか。その答えとして、脳卒中治療ガイドライン2015では、3D-CTAを推奨しています。

3D-CTAはヨード造影剤の静脈注射を要する検査です。そのため、MRAよりも造影剤の血管外漏出や造影剤に対するアレルギーといった合併症のリスクは高くなります。その一方で、脳動脈瘤に対する3D-CTAの感度は、動脈瘤のサイズが3 mm以上では96% (MRAは94%) 、3 mm未満では61% (MRAは38%) であり、特に3 mm未満の脳動脈瘤ではMRAよりも感度が高いため有用です1)。

3.まとめ(未破裂脳動脈瘤とMRA)

・未破裂脳動脈瘤のスクリーニング検査としては1.5T以上のMRAを実施する必要がある。

・MRAを見慣れた医師が診断するべきである。

・患者さんへMRAの結果を説明するとき、「脳動脈瘤はない」と断定しない。

・MRAで脳動脈瘤が疑わしい場合や家族歴のある場合は、3D-CTAの実施を検討する。

以上です。

今回のコラムについてのご質問や、案件のご相談は、ホームページのお問い合わせフォーム、あるいはメールでもお受けしています。

次回は、「スクリーニング検査で未破裂脳動脈瘤が発見されたときの対応」について解説する予定です。

引用文献

1) White PM , Wardlaw JM, Easton V. Can noninvasive imaging accurately depict intracranial aneurysms? A systematic review. Radiology 2000 ; 217 : 361-370.

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