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脳動脈瘤に対する血管内治療のトピックス


脳動脈瘤に対する治療法は、2つの方法に大別できます。一つは開頭治療、もう一つは血管内治療です。近年、血管内治療はデバイスの進化とともに適応を拡大しつつあります。そこで、今回は、血管内治療で豊富な治療経験を有する虎の門病院の松丸祐司先生によって今年発表された総説論文をご紹介します。(なお、この論文は、インターネット上でJ-STAGEより検索できます。)

松丸祐司、天野達雄、佐藤允之:脳動脈瘤に対する血管内治療の戦略と手技.脳外誌 25: 27-32, 2016

1.血管内治療のアドバンテージと問題点

・開頭クリッピングと比較して、血管内治療は手技が単純で均一であるため、術者のlearning curveが短い。

・血管内治療の基本は診断血管造影(いわゆる脳アンギオ)であり、それを習得してデバイスの使用法を理解すれば、脳動脈瘤塞栓術も実施可能となる。

・血管内治療では企業が多くの人と費用を投入してデバイスを開発している。その結果、多くの新規デバイスが開発され、治療成績が向上し、治療適応が拡大しつつある。

・問題点としては、①ひとたび合併症が生じた場合の対処法が限られていること(つまり、迅速に直視下で処置を加えることができない)、②高価な新規デバイスにより医療費が高騰する原因となりうること、③多くのデバイスは米国で開発され、本邦への導入には時間がかかることがあげられる。

2.開頭治療か血管内治療か

・これまでの比較試験からは、破裂動脈瘤に対するコイル塞栓術は、開頭クリッピング術より少なくとも劣ってはいない

・米国において2006年~2011年に120~125施設で動脈瘤に対して実施された治療のうち、破裂動脈瘤では77%、未破裂脳動脈瘤では72%がコイル塞栓術であった。

・一方、本邦では、2010年の時点でも、コイル塞栓術の割合は30~40%程度にとどまっている。

3.脳血管内治療の手技

・脳動脈瘤に対する血管内治療としては、①動脈瘤のみを閉塞する瘤内塞栓術、②母血管閉塞、③母血管への血流改変ステント(flow diverter)留置がある。特に③は最新の治療法である。

瘤内塞栓術

・脳血管内治療の基本となる手技であり、母血管を温存して動脈瘤を閉塞する。

・多くの脳動脈瘤が適応となる。

・適応外は、紡錘状動脈瘤、巨大動脈瘤、部分血栓化動脈瘤などである。

・ワイドネック型動脈瘤や大型のものは、不完全閉塞に終わり、将来的に再発する可能性がある。この再発は瘤内塞栓術の欠点である!

・近年はステントを併用することでワイドネック型動脈瘤への瘤内塞栓術の適応を拡大しつつある。

・ただし、ステントの併用により、症候性虚血性イベントの発生が有意に多くなるとの報告もあるため、ステントの使用には十分な検討が必要である。

母血管閉塞

・解離性動脈瘤や紡錘状動脈瘤に適応となる。

・根治性は高いが、血管閉塞による虚血性合併症の可能性がある。

バルーン閉塞試験で虚血性合併症の発症リスク(つまり側副血行が十分かどうか)を評価するが、その方法や判定基準が確立していない。

・虎の門病院では血管造影時の側副血行の状態と臨床所見を評価し、予防的なバイパス術を実施するかどうか判断している。

Flow diverterによる治療

・Flow diverterは血流改変ステントと訳され、動脈瘤のネック部の母血管に留置することで、密なメッシュ構造により動脈瘤内への血流が減少し、動脈瘤の緩徐な血栓化と血管内皮の新生により治癒させるものである。

・メリットは、瘤内閉塞術で根治が困難であった巨大動脈瘤や部分血栓化動脈瘤を根治できることや、母血管閉塞では温存が不可能であった動脈瘤への血流遮断と血管の温存を両立できることである。

・問題点としては、flow diverter留置部から分枝する小血管や穿通枝の閉塞である。

・本邦での適応は、米国と同様に「内頸動脈後交通動脈分岐部より近位の10 mm以上の未破裂動脈瘤」である。つまり、穿通枝が少ない内頸動脈のside wall typeの大型未破裂動脈瘤はflow diverterのよい適応である。

まとめ

このように脳動脈瘤に対する血管内治療の発展は今後もさらに続きそうですが、新たなデバイスの導入には、安全性の確保が何よりも優先されるべきです。まずは血管内治療のエキスパートとして広く認知されている医師によって臨床に導入され、他の医師はエキスパートから直に教えを受けながら治療経験を重ねる必要があるといえます。経験の浅い医師が興味本位で新たなデバイスを「試しに」使ってみる、といったことは厳に慎むべきで、患者さんに対しては、治療で使用予定のデバイスについて、担当医師自身の使用経験や治療時の指導者の有無をきちんと説明することはきわめて重要であると考えます。

今後も弁護士の皆さんにとって有用と思われる最新の文献を紹介していきたいと思います。よろしくお願いいたします。


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