認知症と区別すべき病態とは?~遺言能力の検討における鑑別の重要性~


医療鑑定研究会 代表医師の中嶋です。
当研究会では、全国の法律事務所の先生方から、遺言能力の有無に関する医学鑑定のご相談を多数いただいております。
その中で、「被相続人が生前、認知症であったのか、あるいは単なる加齢によるもの忘れだったのか」が争点となるケースが頻繁に見られます。
今回は、診断の基盤となる「認知症疾患診療ガイドライン2026」に基づき、認知症(特にアルツハイマー型認知症)と区別すべき病態について解説いたします。法務実務において、医療記録を精査する際の参考になれば幸いです。
■ 認知症と区別すべき主な病態
DSM-5-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル)において、認知症と区別すべき病態として以下のものが挙げられています。
加齢に伴う正常な認知機能低下(生理的健忘)
せん妄
うつ病
限局性学習症と他の神経発達症
以下、「生理的健忘」「せん妄」「うつ病」との鑑別について、順に解説していきます。
■ 加齢に伴う「生理的健忘」との鑑別
ご高齢の方の「もの忘れ」が、正常な老化の範囲内なのか、アルツハイマー型認知症による病的健忘なのかを判断することは非常に重要です。
生理的健忘は通常、進行しないか、あっても緩やかです。また、病識が保たれ、日時の見当識も正常であり、日常生活への支障が少ない点で認知症と区別されます。

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■ 「せん妄」との鑑別
せん妄は、身体疾患や環境の変化、薬剤による影響などが誘因となって引き起こされる、意識障害を伴う急性の精神症状です。
注意の集中や維持が困難となる状態であり、症状が変動する点で、持続する認知症とは異なります。ただし、認知症とせん妄は合併して見られることも多いため注意が必要です。

■ うつ病(偽性認知症)との鑑別
うつ病やうつ状態による「偽性認知症」は、動作や思考の緩慢、集中困難を生じ、記憶力低下や判断の障害を引き起こします。
患者さんが記銘力障害を訴えることもあり、認知症と間違われやすい病態です。アルツハイマー型認知症のように記憶や遂行機能の障害が永続することはなく、抗うつ薬に反応する点も鑑別のポイントです。
また、大きな特徴として、認知症が「病識の低下を反映して自己の機能障害を過少に評価する」のに対し、うつ病は「自己の機能障害を過大に評価する」ことが多い点が挙げられます。

■ 医療鑑定研究会からのメッセージ
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
遺言能力の有無などを問う紛争において、「医療記録に『認知機能低下』とあるから認知症で遺言能力がなかった」と短絡的に結論づけることは危険です。
それがうつ病(偽性認知症)や、一時的なせん妄によるものであった場合、事案の帰趨は大きく変わる可能性があります。
医療鑑定研究会では、認知症専門医の見地からカルテ等の資料を精査し、これらの病態を正確に鑑別した上で、医学的に妥当な意見書を作成しております。
医療が関わる複雑な法的トラブルでお悩みの先生方は、ぜひ一度ご相談ください。
執筆責任者:医療鑑定研究会 代表医師 中嶋 浩二

【略歴】
2002年 大分医科大学(現 大分大学)医学部医学科卒業
2002年 大分医科大学(現 大分大学)医学部附属病院
2003年 Baskent University Ankara Hospital
2006年 昭和大学(現 昭和医科大学)藤が丘病院
2015年 東京警察病院
2018年 牧野リハビリテーション病院(現職)
【資格】
日本専門医機構脳神経外科専門医
日本認知症学会専門医
日本認知症学会指導医
日本職業・災害医学会認定労災補償指導医
日本脳卒中学会専門医
厚生労働省認知症サポート医養成研修終了 等




