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MMSEの活用法:落とし穴と正しい解釈

  • 執筆者の写真: 医療鑑定研究会 中嶋浩二
    医療鑑定研究会 中嶋浩二
  • 3月24日
  • 読了時間: 6分

【 MMSEとは:認知症早期発見の重要なツール】


認知機能を評価する国際的なスクリーニング検査、ミニメンタルステート検査(MMSE)をご存知ですか?


この検査は短時間で実施可能であり、認知症の早期発見に役立つ重要なツールとして、医療現場でも広く使われています。


また、遺言能力の有無に関する鑑定でも、しばしばMMSEが認知機能を評価する上で重要な資料として取り上げられます。


しかし、結果として得られるスコアの解釈には注意が必要です。なぜでしょうか?


この記事では、MMSEの基本的な概要から、スコア評価における具体的な注意点まで、くわしく解説していきます。ぜひ最後までお付き合いください!



MMSEの基本概要


MMSEは「Mini-Mental State Examination」の略称で、認知機能障害を評価するためのスクリーニングテストです。


1975年にアメリカで開発され、日本では2006年に日本語版(MMSE-J)が作成されました。検査は10~15分程度で完了し、30点満点の評価システムを採用しています。


MMSEは認知機能の様々な側面を評価する11の項目で構成されており、


  • 時間の見当識(5点)

  • 場所の見当識(5点)

  • 即時想起(3点)

  • 注意と計算(5点)

  • 遅延再生(3点)

  • 物品呼称(2点)

  • 文の復唱(1点)

  • 口頭指示(3点)

  • 読解(1点)

  • 自発書字(1点)

  • 図形模写(1点)


という構成になっています。

制限時間は1問あたり10秒です。


MMSEの得点基準と解釈の落とし穴


MMSEは30点満点で、28~30点は問題なし、24~27点は軽度認知障害の疑い、23点以下は認知症の疑いとされています。


また、認知症の重症度の簡易判定として、21点以上を軽度、11~20点を中等度、0~10点を重度と区分することもあります。23点以下を認知症とした場合の感度は83%、特異度は93%と高い精度を有しているのが特徴です。


しかしながら、MMSEで低い点数が出ても、必ずしも認知症とは限りません。


うつ病をはじめとする他の疾患が認知機能に影響を与えている可能性もあります。


このように、MMSEは簡単に結果が得られる利便性を有していますが、その一方で、認知症以外の疾患による認知機能低下の可能性も考慮し、ときには認知症専門医による総合的な判断が必要な検査ともいえるのです。



得点に影響を与える個人的要因


MMSEの得点には個人的要因が影響を与えるといわれています。それは一体、何でしょうか?


じつは、年齢や教育歴、病前の知的能力レベルが大きく関係するといわれています。Crum et al. (1993) の研究によると、年齢と教育レベルによる平均スコアは以下のとおりです。


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この表からわかるとおり、高齢であるほど、また教育年数が少ないほど、認知症がなくても点数は低くなる傾向があります。


80歳以上の場合、教育年数が9~12年だと、健常人でもMMSEの平均スコアは25点なので注意が必要です。


MMSEの言語機能依存性と視空間認知の問題


さらに、MMSEの30問中29問は言語機能を用いる検査であるという特徴があります。


そのため、言語機能に関わる脳の部位に障害がある場合、実際の認知機能全体よりも低い得点になる可能性があるのです。


検査時の状態が及ぼす影響


検査時の体調や精神状態も重要な要素です。


疲労や不安、緊張によって一時的に認知機能が低下し、実際の能力より低い得点となることがあります。


これらの要因を考慮せずに得点だけで判断すると、誤った結論に至る可能性があるのです。


検査は被検者の体調の良いタイミングで行うべきといえます。


MMSEの限界と総合的診断の必要性


MMSEはスクリーニング検査であり、これだけで認知症の確定診断はできません。


しかも、軽度の認知障害(MCI)や早期の認知症を検出する感度は低いことが知られています。


ScienceDirect Topicsのメタアナリシスでは、MCIの検出にはスコア27以下が最適とされていますが、感度を高めるためにカットオフを上げると偽陽性のリスクが増加します。


では、どのように活用すべきでしょうか?


MMSE単独で認知機能を評価するのではなく、MRIやCTといった画像検査、本人や家族からの聞き取り内容などと併せて検討する必要があります。このような総合的な評価は、経験豊富な認知症専門医が得意とする内容です。


経時的変化の重要性と注意点


一回のMMSE得点よりも、経時的な変化の方が重要な情報を提供することがあります。なぜでしょうか?


長期経過観察している患者さんで急激に点数が低下した場合、認知機能に影響を及ぼす疾患を併発している可能性があるからです。


また、遺言能力の鑑定では、遺言作成時点での認知機能が問題となるわけですが、MMSEを遺言作成の前後で実施していれば、とても有力な資料となります。


その一方で、繰り返し実施による練習効果(スコアの改善)も考慮する必要があります。なので、頻繁に行えばよいというわけでもありません。経時的な変化を確認する場合でも、3か月以上は間隔をあけたほうがよいでしょう。


検査実施時の心理的配慮


MMSEを実施する際は、被検者の心理的負担を軽減するための配慮も必要です。


どのような工夫ができるでしょうか?


例として「テスト」や「検査」という言葉を避け、不安を煽らないような環境作りがあげられます。


また、検査終了後は、「疲れていませんか?」などの声掛けや、検査の感想から話題を広げたり、「年を取れば、誰でも物忘れするようになりますよ」などのフォローアップも忘れずに行うようにしています。


そうすることで、次回の検査も円滑に実施することができるのです。


代替検査の検討


MMSEでは、書字や図形模写といった課題があります。そのため、腕の麻痺などで書字や描写が困難な場合、「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」などの代替検査を検討することも重要です。


HDS-Rはすべて口述で行う検査であり、MMSE同様に認知症のスクリーニング検査として有効といわれています。


MMSEの適切な活用と総合的判断の重要性


以上のとおり、MMSEは認知機能を評価する有用なスクリーニングツールですが、得点の評価には様々な注意点があります。


認知症の早期発見と適切な対応のためには、MMSEの限界を理解した上で適切に活用し、必要に応じて他の評価方法と組み合わせることで、より正確かつ効果的な認知機能評価が可能となるのです。


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《遺言能力の鑑定を多数お受けしています》


私は認知症専門医として、遺言能力の有無に関する相談を多数お受けしてきました。


遺言能力の鑑定にあたっては、今回ご紹介したMMSEのほかにも参照とすべき資料がいくつもあります。過去のブログ記事では、それら「収集すべき資料」をチェックリストとしてまとめているので、ぜひご活用ください。



遺言能力の有無に関するご相談も広く受け付けています。


お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。





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