(2019.5.18)
代表医師の中嶋です。
本日は,ストレス,特に労働者の職業性ストレスと脳卒中発症の関連について,2016年に発表された論文を紹介します。
過重労働と脳卒中については,その因果関係が争われる場合も少なくありません。
仕事のストレスによって,血圧が上がり,その結果,脳出血を起こしてしまう・・・という機序を想定したとき,「ストレスによって,血圧が上がり・・・」という部分を医学的に説明することがスタート地点ともいえます。
それでは,本日,ご紹介する論文について,解説していきます。
タイトル:『職業性ストレスと心血管リスク』
著者:服部朝美,宗像正徳
掲載雑誌:行動医学研究 2016; 22: 71-75
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本論文における重要と思われる点を挙げます。
1 Job demand-control (JDC) モデル
・JDCモデルは,職業性ストレスの代表的なモデルの一つです。
・JDCモデルは,仕事の要求度(量的負担)を示す job demandと,
コントロール度(裁量権や技能活用)を示す job controlの
2変量から構成されています。
・このモデルでは,job demandが高く,job controlが低い状態を「job strain」と定義し,最も健康障害のリスクが高い状態としています。
2 job strainの状態は高血圧と関連がある
・job strain状態の人は,そうでない人に比べて,収縮期血圧(SBP)及び拡張期血圧(DBP)高い。
・job strain状態の人は,家庭血圧,睡眠時血圧も有意に高く,この傾向は特に男性で目立つ。
・job controlが低い(技能活用が低い)ほど,高血圧の保有リスクが高い(宮城県亘理町の一般住民データ)。
3 血圧が高くなるにつれて脳卒中の発症危険度は上昇する
・JPHC研究では,男女とも血圧が高くなるほど,脳卒中の発症危険度が上昇する。
※JPHC研究:日本人男女約4万人(平均年齢55歳)を約11年間追跡した観察型疫学研究
・JPHC研究では,正常高値血圧レベル(SBP 130-139 mmHgまたはDBP 85-89 mmHg)でも,至適血圧(SBP 120 mm Hg未満かつDBP 80 mm Hg未満)と比較して脳卒中発症危険度は2倍であった。
つまり,正常高値血圧では,すでに動脈硬化が進行しつつある。
・正常高値を主とした軽度血圧上昇例で,job controlが低い群と高い群を比較すると,job controlの低い群では,DBPが7 mmHg高値であった。
・DBPが5 mmHg上昇すると,脳卒中の死亡率は14.5%上昇する。
・過重労働による脳卒中死を予防するためにも,血圧が正常高値レベルであっても血圧管理を徹底する。
4 長時間労働が単純に高血圧のリスクを増加させるというわけではない
・長時間労働が,高血圧のリスクを増加させることは,国内外から報告されている。
・一方で,長時間労働と高血圧のリスクとの間には,関連が見られないとする報告や,逆に負の相関を示す報告もある。
・つまり,仕事の裁量権,満足度,やりがいといったjob controlの要因が,長時間労働に対して,乾燥要因として作用している可能性がある。
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今回は,ストレス,特に職業性ストレスと脳卒中について言及した論文を紹介しました。
実は,このストレスと脳卒中発症との間の因果関係が争われるのは,労働災害だけではありません。
交通事故直後に脳卒中を発症し,後遺障害が残ってしまった,として,交通事故と脳卒中による後遺障害の因果関係が争われることもあります。
交通事故による精神的負荷と血圧上昇については,これまで,私が担当した複数の事件で,その機序を考察してきました。この点については,機会を改めて解説できればと思っています。
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