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執筆者の写真医療鑑定研究会 中嶋浩二

脳外傷による高次脳機能障害の裁判例を脳外科専門医の視点で考察する(3)~画像所見の考え方~

(2020.8.17)

代表医師の中嶋です。

今回は,高次脳機能障害の後遺障害等級認定で争点となりやすい,「画像所見」について解説します。

最近の裁判例でも,頭部CT,MRIで脳損傷を確認できなければ,ほぼ全例で高次脳機能障害を否定されています。

その根拠となっているのは,自賠責保険の高次脳機能障害認定システム検討委員会による報告書の記載内容です。そこには,次のように書かれています。

「脳の器質的損傷の判断に当たっては,CT,MRIが有用な検査資料であるという従前の考え方に変更はない」

「DTI,fMRI,MRスペクトロスコピー,SPECT,PET等に関する研究は,現在なお進行中であり(中略)現在,これらの検査のみで,脳の器質的損傷の有無(中略)を確定的に示すことはできない」

※いずれも,「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について(報告書),2018年5月31日付,11頁」より引用

裁判所は,自賠責保険の判断を重視する傾向にあります(前回のブログ記事参照)。そのため,自賠責保険が上記のような見解を示している以上,裁判所もCTやMRIの所見を重視せざるを得ないのでしょう。

交通事故被害者が,SPECTの結果を根拠に高次脳機能障害を主張し,裁判所がこれを否定した最近の裁判例として,広島地裁福山支部 令和元年10月24日判決,横浜地裁 令和元年7月30日判決,福岡地裁 平成31年2月1日判決,東京地裁 平成30年6月28日判決,大阪地裁 平成30年3月5日判決などがあげられます。

PETも,その結果のみで高次脳機能障害を認定される裁判例はまれですが,最近,「PETの位置付けについては,医学界でも評価が分かれているものの,酸素消費量の脳全般での低下は,高次脳機能障害の発症機序と矛盾するものではない。」として,高次脳機能障害を認められた例があります(名古屋地裁 平成30年3月20日判決)。

医学論文では,SPECTよりもPETのほうが,脳損傷との関連をより具体的に示されています(脳神経外科ジャーナル 2013; 22: 842-848)。そのため,PETで得られた結果を丁寧に解析すれば,高次脳機能障害の画像所見として活用できるといえます。

事故による頭部への外力が明らかで,事故直後の意識障害も認め,症状も事故後早期から確認できるにもかかわらず,CTやMRIで脳損傷の所見を認めない場合,PETによる精査を検討してもよいと考えます。

注意すべき点として,PETは機能的な画像検査であって,CTやMRIといった形態的な画像検査とは異なります。そのため,PETの異常所見には再現性がない,つまり,脳の器質的損傷を示すものではないという反論がなされる可能性があります。

再現性が問題となるのであれば,1回のみではなく,例えば半年程度の間隔で,2回のPETを行い,両方の結果で,同一部位に異常所見を確認できれば,脳損傷の存在を示す根拠として,さらに説得力が増すと思います。

ただし,脳外傷に対してPETを行う場合は自費となるため,2回の検査では,当然,費用も2倍となります。費用に見合った効果が得られるかどうか,事前に脳外科専門医へ相談するなど,慎重な判断が必要です。

(ちょっと一休み)

中学,高校の6年間,書道部に所属していました。といっても,男子校なので「書道ガール」はいません。夏休みには,毎年,展示会への作品を練習するために,「合宿」をしていました。男子校なので,男ばかりが泊まり込みで,広い部屋に新聞紙を敷き詰め,黙々と掛け軸用の大きな作品を練習するのです。

朝は,小筆を使った写経から始まります。午後には,気分転換をかねて,外で野球をしたり,夜は先生を囲んでコーラで乾杯したりと,皆さんが思っているほど,暗い思い出ではありません。むしろ,いまとなっては楽しい思い出です。

部員も個性的な生徒が多かったように思います。書道部の合宿なのに野球が楽しみでしかたなくてバットをむき出しで持参する同級生(はずかしくて電車では離れて座りました),やわらかな作風になるようにと墨汁に牛乳を混ぜる先輩(効果あったのかな?),合宿中に突然,海を見たくなって脱走する生徒(私です)など・・・。

顧問の先生は,字を見れば,いい加減な気持ちで書いたものかどうかすぐにわかる,とおっしゃっていました。

字を書くことは少なくなりましたが,これからも忘れることのない,大切な言葉です。(中嶋)


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