専門医が解説する等級評価の着目点【高次脳機能障害|保存版マニュアル⑧】
- 医療鑑定研究会 中嶋浩二

- 1 日前
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■ はじめに
交通事故による頭部外傷の後、一見すると元通りに回復したように見えても、「記憶力が落ちて仕事に時間がかかる」「以前より怒りっぽくなった」といった変化に本人や家族が苦しむケースは少なくありません。
これが「高次脳機能障害」の恐ろしさです。
麻痺といった身体的な障害と異なり、高次脳機能障害は「目に見えない障害」であるがゆえに、他の障害と比較して、適切な等級認定を受けるためのハードルが高いといえます。
今回は、自賠責保険における認定実務と、裁判所での評価が分かれる分岐点について、医学鑑定の実務的な視点から詳しく解説します。
特に「★等級別の着目点:日常生活と就労への影響」は、鑑定医の経験から得た知見をまとめているので、ぜひお読みください。
■ 高次脳機能障害の認定制度とは
自賠責保険(自賠責共済を含む)において、「脳外傷による高次脳機能障害」の専門的な審査制度が導入されたのは平成13年1月からです。
それ以前は、脳の外傷後に明らかな異常が生じているにもかかわらず、後遺障害認定の手続きで見過ごされてしまう例が相当数あるのではないかと問題視されていました。
被害者団体や医療関係者からの強い指摘を受け、こうした「認定の漏れ」を防止し、より慎重に審査を行うために現在の体制が確立されたという背景があります。
■ 認定の判断を分ける「3つの要素」
等級認定の審査において、高次脳機能障害の有無を判断する柱となるのは以下の3つの要素と言われています。
症状: 記憶障害、注意障害、意欲の低下、情動コントロールの障害、性格変化など
画像所見: 脳の器質的損傷を裏付ける客観的なデータ
意識障害: 事故直後の意識障害の程度とその持続時間
自賠責保険の認定実務では「2.画像所見」と「3.意識障害」が重視されている印象を受けます。
症状が重度であっても、頭部CTやMRIで確認できた器質的脳損傷が軽微だと、高次脳機能障害の等級は低く認定されてしまうのです。
同様に、事故直後の意識障害が軽度で、持続時間も短い場合も、高次脳機能障害は低位の障害等級として認定される傾向があります。
しかし、本来、後遺障害とは「1.症状」によって、「日常生活や社会生活にどのような支障をきたしているか」という実態に主眼を置いて、等級の認定がなされるべきです。
なお、画像所見や意識障害については、本ブログでも記事にまとめています。ぜひご一読ください。
■ 神経心理学的検査の注意点
等級評価を客観化する指標として、ウェクスラー成人知能検査(WAIS)、ウェクスラー記憶検査改訂版(WMS-R)などの神経心理学的検査が広く活用されています。
しかし、ここで注意すべきは、検査結果はあくまで「補助的資料」であるという点です。
人間の精神機能は極めて複雑であり、特定の検査だけでその全容を推し量ることは不可能です。
WAIS-IVの全検査IQが、100前後の「平均」に分類されても、3級や5級といった重度の等級が認定された事例もあります。
ある特定の検査だけで、高次脳機能障害の程度を評価することは困難です。
「IQが高いから障害はない」という形式的な判断に陥ることなく、実際の生活で生じている支障を多角的に立証していく姿勢が求められます。
★ 等級別の着目点:日常生活と就労への影響
等級を左右する具体的な判断基準について、特に重要なポイントを整理します。
1級・2級:常時介護と随時介護
1級は、常時介護を要する状態です。高次脳機能障害が重度の場合、脳損傷も広範に及ぶことが多く、麻痺といった身体障害や失語を伴っているケースが多いといえます。
身体障害や失語等も含め、神経系統の障害を総合的に判断すれば、1級の判断はそれほど難しいものではありません。
その一方で、他の障害を伴わず、高次脳機能障害のみで1級となると、精神機能の異常が顕著で、まったく目を離せないといった極端な例しかないように思われます。
2級は、「一人で外出することができない」「生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声かけや看視が欠かせない」状態とされています。
「赤信号を無視して渡ってしまう」「一度外出すると自力で帰宅できなくなる」といった状態であれば、2級に該当するといえます。しかし、これらの状態を確認すること自体が困難です。
したがって、症状の程度や各種検査の結果から、「きっと赤信号を無視して渡ってしまうだろう」とか「外出したら自力で帰宅できないだろう」などと予想するしかないといえます。
身辺動作に対する声かけの必要性については、日常生活の状況を詳細に把握しなければ、判断が困難です。
身体動作は可能な場合、介護の必要度は高くないような印象を受けます。しかし、実際は食事、着替え、整容などを開始するのに声かけを必要とするのであれば、当然、必要度が高いとと判断できます。
3級・5級:労働能力を喪失しているかどうか
ざっくり言えば、3級は「全く仕事ができない状態」、5級は「ごく簡単な仕事ならできる状態」というイメージです。
被害者が職場復帰して、職場からも排除されず、一応は安定した状態を維持できていれば、「仕事ができる」と判断してよいといえます。
しかし、一度職場に復帰したからといって、安易に「労働能力あり」と判断するのは問題があります。
周囲が過剰に配慮していたり、ミスを誰かがカバーしていたりする「福祉的就労」である場合や、「気に入ったことしかしない」「着実な仕事がこなせない」といった問題があれば、それは労働能力があるとはいえません。5級というよりも3級のほうが合理的な場合もあります。
※福祉的就労(ふくしてきしゅうろう):本人のリハビリや社会参加を目的とした、通常の利益を求める仕事とは異なる形態の働き方のこと。
7級・9級:一般就労は維持できるが問題あり
先に述べた5級の状態は、周囲の人から見ても明らかに障害があるとわかります。
7級も、職場の同僚などから見れば「障害がありそうだ」とわかるケースが多いといえます。
具体的には、会話の印象からすれば、それほど異常があるように思えないが、仕事をうまく処理できない、情動コントロールの障害により周囲との摩擦を生じやすいといった状態です。
つまり、高度な仕事は困難でも、ある程度の仕事は可能というイメージです。
神経心理学的検査の結果では、「低下なし」となる場合もあります。7級を主張するためには、高次脳機能障害の症状による仕事上、生活上の支障を具体的に示せるかどうかが重要です。
9級のイメージとしては、画像上、器質的な脳損傷を認め、仕事の効率が事故前よりも低下していると本人や周囲が感じているような状態です。7級との区別は明確ではありません。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。
高次脳機能障害の適正な等級評価は、容易ではありません。そもそも、高次脳機能障害という障害は専門性が高いため、診療経験の豊富な医師は限られています。
リハビリテーション専門の医療機関で長年勤務している私は、高次脳機能障害の患者さんの社会復帰を数多くサポートしてきました。
これからも、被害者の皆さんが正当な等級評価を受け、未来への一歩を踏み出せることを目指してまいります。
後遺障害等級の認定でお困りの際は、お気軽にご相談ください。
執筆責任者:医療鑑定研究会 代表医師 中嶋 浩二

【略歴】
2002年 大分医科大学(現 大分大学)医学部医学科卒業
2002年 大分医科大学(現 大分大学)医学部附属病院
2003年 Baskent University Ankara Hospital
2006年 昭和大学(現 昭和医科大学)藤が丘病院
2015年 東京警察病院
2018年 牧野リハビリテーション病院(現職)
【資格】
日本専門医機構脳神経外科専門医
日本認知症学会専門医
日本認知症学会指導医
日本職業・災害医学会認定労災補償指導医
日本脳卒中学会専門医
厚生労働省認知症サポート医養成研修終了 等





