【保存版マニュアル③】高次脳機能障害の画像診断|脳外科医が教えるCTの重要性
- 医療鑑定研究会 中嶋浩二

- 8 分前
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はじめに:前回のおさらい
前回は、高次脳機能障害を引き起こす脳損傷のメカニズムについてお話しました。
「なぜ高次脳機能障害が発生するのか」を知ることは、適切な診断への第一歩といえます。
※前回の記事:高次脳機能障害【保存版マニュアル②】脳損傷のメカニズム
今回はそこから一歩進んで、高次脳機能障害を引き起こす脳の損傷を「どうやって証明するか」について、専門医の視点から分かりやすくお伝えします。
医学的な難しい言葉も、できるだけ平易な言葉で説明しますので、
ぜひ最後までお読みください。
■ 事故直後の初期診断:CTで見つける脳の損傷
頭をケガして病院に救急搬送されると、通常、まず行われるのが「CT」検査です。
CTは、X線を使って頭の内部を輪切りにし、断面図として撮影する装置です。
この検査は、脳内での急激な出血を短時間で見つけるのが非常に得意です。
脳損傷として、CTでも発見しやすいのが「脳挫傷」です。
脳挫傷は、「非可逆的な脳挫滅創」と定義されています。
簡単に言うと、強い衝撃によって脳の一部が破壊されて壊死した状態です。
当然、脳挫傷の部分は正常に機能できません。
もし、記憶に関連する部分に脳挫傷が発生した場合、記憶が障害されます。
脳挫傷のポイントは3つあります。
①脳内の出血を伴うことが多い(伴わない場合もある)
②脳浮腫を伴うことが多い
③脳出血や脳浮腫は経時的に増大しやすい
実際の画像を見てみましょう。

上の画像をご覧ください。
初回CTでは、右前頭葉の内部に黒い部分と白い部分の混在を認めます。
(※黄色の丸で囲んだ部分です。)
白い部分が脳内の出血を表しています。
その周囲の黒い部分は、脳挫傷と脳浮腫の両方です。
3時間後のCTでは、白い部分も黒い部分も大きくなっています。
出血の増大とそれに伴って浮腫も悪化しています。
このように、出血や浮腫が経時的に増大しやすいのが脳挫傷の特徴です。
もうひとつ、重要な点は「脳挫傷=1か所だけの脳損傷」とは限らないことです。
複数箇所に脳挫傷を負ってしまった例をお示しします。

上の例では、脳のあちこちに脳内の出血を表す白い部分を認めます。
しかも、3時間後のCTでは、さらに出血箇所も増えています。
このように、重症の頭部外傷では、複数の脳挫傷が同時に発生する場合もある、と覚えておいてください。
それほど重症ではない脳挫傷の場合、初回のCTでは、異常な白い部分も黒い部分も認めなかったのに、その後のCTで、白い部分や黒い部分がはっきりしてくる場合があります。
なので、頭部外傷後、特に高齢者の場合は、厳重に経過観察を行い、少しでも様子に違和感があれば、再度、CTを実施し、経時的に出現してくる脳挫傷の所見を見落とさないことが必要です。
■ 脳の損傷かどうか区別する
次に、頭部外傷による高次脳機能障害かどうかを判断するうえで、とても重要な点を説明します。
頭部CTで頭のなかに出血を認めたら、それが高次脳機能障害の原因といえるでしょうか。
じつは、頭のなかの出血、すなわち「頭蓋内出血」はそのまま脳損傷を意味するわけではありません。
つまり、「頭蓋内出血=脳損傷」ではないのです。
自賠責保険の後遺障害認定では、高次脳機能障害の原因となりうる「脳実質の損傷」を画像で確認できるかどうか、を重視する傾向にあります。
たとえば、頭部外傷後のCTで「外傷性くも膜下出血」や「急性硬膜下血腫」を認めた場合はどうでしょうか。
これらはいずれも脳実質「外」の出血です。
・外傷性くも膜下出血
くも膜下腔という脳の周囲に存在するスペースに広がる出血です。
脳挫傷、びまん性軸索損傷に伴って認めることもありますが、外傷性くも膜下出血だけでは、脳実質の損傷を裏付ける所見とはいえません。
CTでは下のように確認できます。

矢印がくも膜下出血です。
脳の溝に沿って、うっすらと白い線を認めます。
外傷性くも膜下出血という頭蓋内出血を認めますが、これだけでは、脳実質の損傷とはいえません。他に脳挫傷の所見がないか、詳しくチェックする必要があります。
・急性硬膜下血腫
脳の表面を覆っている硬膜の下、つまり硬膜と脳の間(これを硬膜下腔といいます。)の出血です。
外傷性くも膜下出血と同様、これだけでは、脳実質の損傷とはいえません。
脳挫傷を伴う場合もあるため、CTを詳しくチェックする必要があります。
なお、急性硬膜下血腫は、脳実質を広範に圧迫することがあります。圧迫により脳の重い機能障害を引き起こすことがあります。
CTでは、下のように左右の脳をわける大脳鎌(=硬膜)という膜に沿って出血を認める場合もあります。

大脳鎌に沿った急性硬膜下血腫(黄矢印)と、右前頭部にも少量の急性硬膜下血腫(赤矢印)を認めます。
以上のとおり、CTで頭蓋内の出血を認めた場合でも、それが脳実質の損傷かどうか、冷静に判断する必要があるのです。
■ 頭部CTでわかる「頭部外傷の証拠」
交通事故や労災で高次脳機能障害が発生した可能性を検討する上で、頭部外傷の事実を確認することは必須です。
このことは、前々回のブログで解説しました。
じつは、頭部CTから頭部外傷に関する重要な情報も得られるのです。
CTというと内部の異常を把握するもの、というイメージがありますよね。
頭部CTだと、頭のなかを見るためのもの、と考えがちです。
しかし、頭蓋骨の外に目を向けると、頭部外傷の重要な所見が写っていることも。
たとえば、下のCTをご覧ください。

頭のなかに異常な白い部分や黒い部分は見られません。
しかし、頭の外側、頭蓋骨の外に注目すると、皮下の軟部組織が腫れています(下の画像の矢印)。

いわゆる「たんこぶ」がCTで確認できます。
頭部打撲の動かぬ証拠といえます。
頭部は毛髪でおおわれているため、頭部打撲の所見が見えづらく、注意深く探しても見落とすことがあります。
なので、交通事故や労災で頭部打撲の有無がはっきりしない場合でも、頭部CT所見から頭部外傷を確認することができるのです。
このことは、意外と知られていないので、ぜひ覚えておいてください。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
今回は、CTについて解説しましたが、高次脳機能障害の診断において、CTだけでは不十分な場合もあります。
高次脳機能障害の主な原因の一つである「びまん性軸索損傷」は、CTには写りにくいからです。
そこで重要になるのが、MRIです。
MRIはCTよりも脳の組織を細かく描写することができ、小さな出血やむくみを見つけるのに優れています。
ということで、次回はMRIについて解説したいと思います。
とても重要な内容なので、ぜひ次回もお読みください。
執筆責任者:医療鑑定研究会 代表医師 中嶋 浩二
【略歴】
2002年 大分医科大学(現 大分大学)医学部医学科卒業
2002年 大分医科大学(現 大分大学)医学部附属病院
2003年 Baskent University Ankara Hospital
2006年 昭和大学(現 昭和医科大学)藤が丘病院
2015年 東京警察病院
2018年 牧野リハビリテーション病院(現職)
【資格】
日本専門医機構脳神経外科専門医
日本職業・災害医学会認定労災補償指導医
日本脳卒中学会専門医
日本認知症学会専門医
日本認知症学会指導医
厚生労働省認知症サポート医養成研修終了
日本プライマリ・ケア連合学会認定医 等






