びまん性軸索損傷を頭部MRIで診断する【高次脳機能障害|保存版マニュアル④】
- 医療鑑定研究会 中嶋浩二

- 17 時間前
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はじめに:前回のおさらい
前回は、高次脳機能障害の画像診断として頭部CTが役立つことを解説しました。
頭部CTは、特に脳挫傷の診断で威力を発揮します。
しかし、高次脳機能障害の診断において、CTだけでは不十分な場合もあります。
なぜなら、高次脳機能障害の主な原因の一つである「びまん性軸索損傷」は、CTで確認しづらいからです。
今回は、高次脳機能障害の診断で切り札となる頭部MRIについて、わかりやすくお話します。
ぜひ最後までお読みください。
■ MRIとCTの違い
まず最初に、「CTとMRIの違い」についてお話しします。
どちらも脳の画像検査ですが、その仕組みは全く異なります。
1. スピードと出血を見つけるのが得意な「CT」
救急車で病院に運ばれた時、真っ先に行われるのがCT検査です。
これはレントゲンと同じ「X線(放射線)」を使います。
CTの最大のメリットは、数分という短時間で撮影できることです。
出血している場所を一瞬で見つけることができます。
命に関わる緊急事態には、まずCTが活躍するのです。
しかし、CTには弱点があります。
それは、脳の細かな組織や、小さな変化を映し出すのが苦手だということです。
例えるなら、CTは「荒い画質の白黒写真」のようなものです。
ある程度の大きさの出血は分かりますが、表面の細かい傷までは見えにくいのです。
2. 繊細な脳組織をくっきり映す「MRI」
一方、MRIは「強力な磁石と電波」を使って撮影します。放射線は使いません。
大きなトンネルのような機械に入り、15分〜20分ほどかけて行います。
MRIの画像は、CTに比べて高精細です。
例えるなら、MRIは「超高画質のハイビジョン映像」です。
CTでは「異常なし」と言われたけれど、MRIを撮ってみたら小さな脳の傷が見つかった、ということは日常茶飯事です。
3. なぜ高次脳機能障害にMRIが必要なのか
高次脳機能障害の原因となる脳のダメージは、非常に微細なことが多いのです。
交通事故で頭を強く打った場合でも、CTでは「出血なし」と診断されることがあります。
しかし、患者さんは「以前より怒りっぽくなった」「集中力が続かない」と訴えます。
このような場合、脳の中で神経が傷ついている可能性があります。
この「目に見えにくい微細な損傷」を見つけるには、CTだけでは不十分なのです。
だからこそ、高次脳機能障害の診断には、より精密なMRI検査が必須となるのです。
事故から時間が経って症状が固定してしまった場合、古い傷跡を探すのにもMRIは非常に優れています。
■ 【びまん性軸索損傷】MRI画像で発見する「脳の配線の断線」
さて、ここからは少し専門的な話になりますが、できるだけ噛み砕いて説明しますね。
高次脳機能障害の原因として、特に交通事故の後に多いのが「びまん性軸索損傷」です。
一つずつ言葉を分解してみましょう。
びまん性:広範囲に広がっていること
軸索:脳の神経細胞から伸びている「電気信号を送るケーブル(配線)」のこと
損傷:傷つくこと
つまり、「脳の中にある無数の配線が、広い範囲でブチブチと切れたり傷ついたりすること」を指します。
1. 脳の大部分は柔らかい
私たちの脳は、頭蓋骨という硬いヘルメットの中で、髄液という水に浮いています。
脳の内部の硬さは、大部分で豆腐のように柔らかいものです。
交通事故で車が衝突した瞬間、頭が激しく揺さぶられます。
すると、頭蓋骨の中で柔らかい脳がねじれたり、引っ張られたりします。
この「ねじれ」の力によって、脳の奥深くにある神経のケーブル(軸索)が引きちぎられてしまうのです。
これが「びまん性軸索損傷」の正体です。
前々回のブログ記事で、脳損傷の機序をわかりやすく解説しています。
ぜひ、ご一読ください。→脳損傷はなぜ発生する?脳外科専門医がメカニズムを解説【高次脳機能障害|保存版マニュアル②】
2. MRIでびまん性軸索損傷を見つける
この「配線の断線」を見逃さないためにMRIで行うのが、
T2*(スター)強調画像
SWI(磁化率強調画像)
DWI(拡散強調画像)
といった撮像法です。
これらは、微小な神経損傷やそれに伴う出血を見つけるのが非常に得意です。
神経のケーブルが切れる時、周りの細かい血管も一緒に切れて、ごくわずかな出血を起こします。
T2*強調画像で見ると、この小さな出血が「黒い点」として映ります。
びまん性軸索損傷の方の画像をT2*強調画像で見ると、脳のあちこちに黒い点が散らばって見えることがあります。下図の矢印をご参照ください。

SWIは、T2*強調画像よりもさらに微細な出血を捉えて、画像上の黒い点として描出させることができます。自賠責保険でも、高次脳機能障害の画像検査として、SWIの経時的な実施を推奨しています。


また、DWIでは、出血を伴わない軸索の損傷部分を捉えることができます。下図の矢印をご参照ください。
ただし、受傷から48時間以上が経過すると感度が落ちるので、DWIを実施する場合は、時期を逸しないことが重要です。

このように、MRIのT2*強調画像、SWI、DWIでの異常所見が、「脳が強い衝撃を受けて、配線が傷ついた」という動かぬ証拠になるのです。
3. 脳の萎縮を確認する
もう一つ、MRIで確認できる重要なサインが「脳の萎縮」、つまり脳が縮んでしまうことです。
神経のケーブルが切れてしまうと、その先の細胞は使われなくなり、徐々に死んでしまいます。
びまん性軸索損傷では、事故直後は腫れていて分からなくても、半年、1年と経過を見るうちに、脳の隙間が広がってきたり、脳室が拡大してきたりすることがあります。

経時的な脳萎縮の所見は、頭部CTでも確認できます。
ただし、すべての例で経時的な脳萎縮を認めるわけではありません。ご注意ください。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
今回は、高次脳機能障害の画像診断で重要なMRIについて解説しました。
しかし、画像診断はあくまで診断の一要素にすぎません。
では他にどんな検査が重要なのでしょうか。
それは「神経心理学的検査」です。
どういった検査かというと、記憶力、注意力、遂行機能などを測るための詳細なテストです。
具体的には、WAIS-IV、WMS-R、TMT-Jなどの検査があります。
ということで、次回は神経心理学的検査について解説したいと思います。
とても重要な内容なので、ぜひ次回もお読みください。
執筆責任者:医療鑑定研究会 代表医師 中嶋 浩二
【略歴】
2002年 大分医科大学(現 大分大学)医学部医学科卒業
2002年 大分医科大学(現 大分大学)医学部附属病院
2003年 Baskent University Ankara Hospital
2006年 昭和大学(現 昭和医科大学)藤が丘病院
2015年 東京警察病院
2018年 牧野リハビリテーション病院(現職)
【資格】
日本専門医機構脳神経外科専門医
日本職業・災害医学会認定労災補償指導医
日本脳卒中学会専門医
日本認知症学会専門医
日本認知症学会指導医
厚生労働省認知症サポート医養成研修終了
日本プライマリ・ケア連合学会認定医 等





