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神経心理学的検査の活用法を専門医が解説【高次脳機能障害|保存版マニュアル⑤】

  • 執筆者の写真: 医療鑑定研究会 中嶋浩二
    医療鑑定研究会 中嶋浩二
  • 3月24日
  • 読了時間: 6分
医学鑑定 後遺障害

はじめに:前回のおさらい


前回は、高次脳機能障害の画像診断で重要なMRIについて解説しました。


頭部MRIは、特にびまん性軸索損傷の診断で有用です。



しかしながら、後遺障害として、脳外傷による高次脳機能障害を評価するとき、画像検査だけでは不十分です。


後遺障害は、日常生活への影響を評価することが大切です。


高次脳機能障害の具体的な障害の有無と程度を評価するのが、神経心理学的検査といえます。


ただし、やみくもに検査をすればいいわけではありません


脳損傷による高次脳機能障害が疑われるときに、どの神経心理学的検査を選択すればよいのか。そして、どの順番で実施すればよいのか。


今回は、後遺障害等級の判断でも重要な神経心理学的検査について、その活用法を専門医の見地からわかりやすく解説していきます。


ぜひ最後までお読みください。


■ 神経心理学的検査の選び方


じつは神経心理学的検査の種類はとても多いです。


限られた時間のなかで、適切な評価を行う必要があります。

そのためには、神経心理学的検査の選択が重要なのは言うまでもありません。


ここからは、実際の臨床現場で行われる頻度の高い検査をピックアップして解説します。


① 全般的な認知機能の把握


スクリーニング検査


まずはMMSE(ミニメンタルステート検査)やHDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)といった「スクリーニング検査」で、認知機能全般を評価します。


これらスクリーニング検査のみで高次脳機能障害の詳細な評価は困難ですが、その後の検査への入り口となります。


たとえば、MMSEやHDS-Rで記憶障害が疑われた場合は、記憶に関する詳細な検査(WMS-R)を実施します。


MMSEについては、こちらの記事でくわしく解説しているので、ぜひご一読ください。


WAIS-IV(ウェクスラー成人知能検査 第4版)


成人向けに開発された知能検査で、高次脳機能障害を詳細に評価できます。


所要時間は約90分と非常に時間がかかる検査です。


つまり、WAIS-IVを最後までやり遂げることができたのであれば、注意力はおおむね維持されていると考えられます。


RCPM(レーブン色彩マトリックス検査)


言語性課題が十分に行えない失語症患者を対象とした簡易的な知能検査です。


所要時間は10~15分と短時間で実施できる利点があります。




② 記憶障害の評価


WMS-R(ウェクスラー記憶検査改訂版)


国際的に広く用いられている検査です。


記憶に関する5つの側面を評価できます。非常に有用性が高い検査です。


主な利点は、言語性と視覚性の記憶を分けて評価できること、即時再生と遅延再生の両者を評価することによって記憶の把持能力が評価できること、の2点といえます。


しかし、施行には60~90分を要し、難易度も高いため、特に耐久性の乏しい高齢者にとっては時間的・精神的負担が強いため、目的を明確にしたうえで実施するよう注意が必要です。


RBMT(日本版リバーミード行動記憶検査)


日常生活に酷似した状況下における記憶を評価する検査法です。


日常生活場面での問題点を捉え、リハビリテーションの方針を検討する上で非常に重要な検査法といえます。


所要時間は30分です。



③ 遂行機能障害の評価


BADS(日本版遂行機能障害症候群の行動評価)


動物園の地図を見て効率よく回る計画を立てるなど、実生活に近い課題を含んでおり、就労可能性の判断材料として重視されます。


TMT-J(Trail Making Test日本版)


机上の注意機能検査であり、情報処理能力、注意の配分能力など、主に視覚的な注意機能を評価する検査法です。


Part AとPart Bに分けられ、遂行機能障害ではPart Bで誤反応が目立ちます。



ここまでの神経心理学的検査の選び方を1枚の図解にまとめます。


神経心理学的検査の選び方 画像
神経心理学的検査の選び方


■ 神経心理学的検査の実施する順番


次は、神経心理学的検査を行う順番について解説します。


脳外傷による高次脳機能障害の患者さんでは、複数の障害を認める場合が少なくありません。


たとえば、記憶障害と注意障害といった組み合わせです。


その場合、神経心理学的検査を行う順番が重要となります。


神経心理学的検査を実施する上で、最も基本的なルールは「能力のヒエラルキー(階層構造)」を遵守することです。


人間の脳の働きは、土台となる機能が安定していなければ、その上の高度な機能を正しく測定できません。


これを「神経心理ピラミッド」と呼び、検査はピラミッドの低い層から順番に行うのが鉄則です。


注意力・覚醒の確認(ピラミッドの土台)


まずは「注意力」の検査から開始します。


注意力とは、物事に集中したり、必要な情報を選択したりする力のことです。


もし被害者に重い「注意障害(うっかりミスが増えたり、集中が続かなかったりする状態)」がある場合、その後の記憶力テストをしても正しい結果は得られません。


集中できていない状態で記憶力が低いと出ても、それは「記憶」自体の問題ではなく、単に「集中できていなかったから覚えられなかった」だけである可能性があるからです。


知能・記憶の測定(中層部)


注意力が一定程度保たれていることが確認できて初めて、全般的な知能や記憶力の検査に進みます。


知能検査にはWAIS-IV(ウェクスラー成人知能検査)などが、記憶検査にはWMS-R(ウェクスラー記憶検査)などが用いられます。


前頭葉機能の評価(頂点)


最後に、ピラミッドの頂点にある「遂行(すいこう)機能」を評価します。


※遂行機能とは、目標を決め、計画を立てて、効率よく物事を実行する「脳の司令塔」のような働きのことです。


このように「注意力 → 知能 → 記憶 → 前頭葉」という順番で神経心理学的検査を進めることが推奨されています。


神経心理学的検査の順番 画像
神経心理学的検査の順番


最後までお読みくださり、ありがとうございました。


今回は、高次脳機能障害の評価で神経心理学的検査の活用法について解説しました。


ここで、脳外傷による高次脳機能障害で重要なことをお伝えします。


それは、神経心理学的検査で異常を認めたとしても、その原因となる脳の損傷を画像検査で確認することです。


冒頭で紹介した前回の記事と併せて、こちらの記事もぜひご一読ください。



次回は、頭部外傷で損傷を受けやすい「前頭葉」について、解説したいと思います。


前頭葉機能障害は、高次脳機能障害でも頻度が高いので、その理解は重要です。

ぜひ次回もお読みください。





執筆責任者:医療鑑定研究会 代表医師 中嶋 浩二


医療鑑定研究会 中嶋浩二医師

【略歴】

2002年 大分医科大学(現 大分大学)医学部医学科卒業

2002年 大分医科大学(現 大分大学)医学部附属病院

2003年 Baskent University Ankara Hospital

2006年 昭和大学(現 昭和医科大学)藤が丘病院

2015年 東京警察病院

2018年 牧野リハビリテーション病院(現職)


【資格】

日本専門医機構脳神経外科専門医

日本職業・災害医学会認定労災補償指導医

日本脳卒中学会専門医

日本認知症学会専門医

日本認知症学会指導医

厚生労働省認知症サポート医養成研修終了

日本プライマリ・ケア連合学会認定医 等



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