見落とし注意!意識障害の評価と立証【高次脳機能障害|保存版マニュアル⑥】
- 医療鑑定研究会 中嶋浩二

- 1 日前
- 読了時間: 7分

■ はじめに
前回は、脳損傷による高次脳機能障害の知識として欠かせない「前頭葉の機能障害と解剖」について解説しました。
脳外傷による高次脳機能障害の後遺障害認定では、受傷後の意識障害が頻繁に問題となります。
医学的にも、受傷後の意識障害の有無、程度、持続時間は、脳損傷を推測する参考所見として大切です。
重要なのは、意識障害が軽度だからといって、高次脳機能障害の存在を簡単に否定できるわけではない、ということです。
あまり知られていませんが、じつは受傷後の意識障害について、臨床でもさまざまな問題点があるのです。
今回は、高次脳機能障害の後遺障害認定に関連した実務において、押さえておくべき意識障害の評価と立証戦略を専門医の視点で解説します。
ぜひ最後までお読みください。
■ そもそも「意識」とは?
意識には、3つの要素があります。
① 覚醒
さまざまな感覚器官が、刺激を受け入れる準備を整えた状態
②気付き
特定の対象や事象に向かう意識で、その対象からの刺激を受けて入れている状態
③自己意識
自分の意識そのものに向かう意識
これら3要素のいずれかに障害がある場合を意識障害といいます。
例えば、開眼していれば、①の覚醒に問題はないといえます。
しかし、呼びかけても一点を見つめるだけで反応がない状態は、②の気付きに障害があります。なので、意識障害といえるのです。ちなみに、この状態をのちほど解説するJCSにあてはめると、1桁の3に該当します。

■ 意識レベルの判定基準(JCS・GCS)
JCS(Japan Coma Scale)とGCS(Glasgow Coma Scale)は、頭部外傷などの際に脳のダメージを評価するための「ものさし」として、医療現場のみならず、後遺障害の認定実務において重要視されています。それぞれの仕組みと特徴について詳しく解説します。
JCS(Japan Coma Scale)
JCSは1975年に日本で開発された意識レベルの判定基準で、「3-3-9度方式」とも呼ばれます。意識状態を大きく3つの段階(桁数)に分け、さらにそれぞれを3段階に分けた計10段階(0を含む)で評価します。数字が大きくなるほど意識障害が重いことを示します。
Ⅰ群(1桁:刺激しなくても覚醒している状態)
1: だいたい意識ははっきりしているが、今ひとつスッキリしない。
2: 見当識障害(時、場所、人がわからない)がある。
3: 自分の名前や生年月日が言えない。
Ⅱ群(2桁:刺激すると覚醒するが、やめると眠り込む状態)
10: 普通の呼びかけで容易に開眼する。
20: 大きな声や体を揺さぶることで開眼する。
30: 痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと、かろうじて開眼する。
Ⅲ群(3桁:刺激しても覚醒しない状態)
100: 痛み刺激に対し、それを払いのけるような動作をする。
200: 痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめたりする。
300: 痛み刺激に全く反応しない。
特徴: 日本国内で広く普及しており、特に救急隊員や他の医療従事者が迅速に評価する際に適しています。
GCS(Glasgow Coma Scale)
GCSは1974年に英国で提唱された世界標準の評価尺度です。「開眼(E)」「言語反応(V)」「運動反応(M)」の3項目をそれぞれ数値化し、その合計点(3点〜15点)で評価します。
開眼(Eye opening:E)
4点:自然に開眼
3点:呼びかけで開眼
2点:痛み刺激で開眼
1点:開眼せず
言語反応(Verbal response:V)
5点:見当識あり(正答)
4点:会話混乱
3点:不適当な単語
2点:理解不能な声
1点:発語なし
運動反応(Motor response:M)
6点:指示に従う
5点:痛み刺激部位を認識する
4点:肢を引く(逃避)
3点:異常屈曲
2点:伸展反応
1点:動かず
重症度分類
軽症: 13〜15点
中等症: 9〜12点
重症: 8点以下
実務における重要性と注意点
高次脳機能障害との関連: GCSが8点以下の重症例では、何らかの高次脳機能障害が生じる可能性が高いと言われています。
JCS 1の重要性: 現場で「JCS 1」と判定された症例は、一見清明に見えても、脳に器質的損傷がある頻度がJCS 0(清明)より有意に高いため、意識障害として扱うべきであるとの報告があります。
誤判定のリスク: 経験の浅い医師がGCSを評価すると、微細な見当識障害を見逃して「15点満点」と記録してしまうなどの誤判定が起こりやすいことが指摘されています。そのため、カルテの数値だけでなく救急搬送記録や看護記録の具体的な記述を精査することが不可欠です。

■ 意識障害の重症度と高次脳機能障害
自賠責保険の実務では、高次脳機能障害の審査対象とするための「目安」が設けられています。
一つは、半昏睡以上の状態(JCS 2桁以上、GCS 12点以下)が「6時間以上」継続することです。
もう一つは、健忘症や軽度意識障害(JCS 1桁、GCS 13〜14点)が「1週間以上」続くことです。
しかし、これらはあくまで「審査対象を選別するための基準」に過ぎないという点に留意してください。自賠責報告書内でも、この数値に達していないからといって直ちに障害を否定してはならないとあります。
実際、意識障害がきわめて短時間であっても、脳梁などの白質に脳損傷が生じる例は報告されています。
例えば「びまん性軸索損傷(DAI)」は、画像が未発達だった約40年前の古い分類に基づいています。その古い分類では「6時間以上の昏睡」をDAIの定義としていましたが、これは現代では不正確です。
DAIは病理診断名であり、回転加速度による剪断力が原因で、脳の広い範囲の軸索が損傷する病態です。直接の打撲がない場合や、短時間の意識消失でも、DAIによる重篤な障害が残ることもあります。
意識障害が軽度であっても、高次脳機能障害の可能性を安易に否定してはならないことをぜひ覚えておいてください。

■ 外傷後健忘(PTA)の問題点~見落とされがちな回復過程~
意識障害の評価において、JCSやGCSの点数以上と同様に大切なのが「外傷後健忘(PTA)」の期間です。
外傷後健忘とは、意識障害と注意障害の回復過程における「錯乱状態」です。
脳損傷が重症であるほど、この健忘の持続期間は長くなるという医学的な相関が認められています。
PTAの終了時点とは、見当識が回復し、日常的な出来事を記憶して後で思い出す力が持続した時です。この終了時点の判定には、GOATという専用のテストや、MMSE、HDS-Rなどが用いられます。
しかし、実際の臨床現場で、PTAの期間が正しく評価されているケースはまれであるのが現状です。多くの医師がPTAの認識に乏しく、適切な検査による終了時点の特定が行われていないからです。
退院後に本人からよく話を聴いてみると、入院後数日間の記憶が全くなかったことが判明する例も多々あります。
脳損傷後の意識は段階的に改善しますが、その途中で必ず「混乱(confusion)」の時期を通ります。この混乱期の記憶は定着していないため、前向性健忘の期間にはこの時期を含めるべきです。
PTAが14日以下の場合には回復良好例が多いという報告もあり、期間の特定は予後予測に直結します。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。
受傷直後の「意識障害」の評価は、高次脳機能障害という目に見えない障害を解き明かすため重要です。
高次脳機能障害を適正に立証するためには、
初期の意識障害の推移
画像所見
神経心理学的検査
日常生活における支障
の4点を医学的に矛盾なく繋ぎ合わせることが不可欠です。
特に、びまん性軸索損傷の画像所見、神経心理学的検査の活用法は重要なので、こちらの記事もご一読ください。
書面上「意識清明」とされていても、搬送記録や看護記録に「JCS 1」相当のぼんやりした様子が記されていれば、それは決して見過ごしてはならない障害のサインです。
専門医である私は、記録を丁寧に確認し、被害者の方が正当な評価を受け、未来への一歩を踏み出せるよう全力でサポートしてまいります。
お気軽にご相談ください。
執筆責任者:医療鑑定研究会 代表医師 中嶋 浩二

【略歴】
2002年 大分医科大学(現 大分大学)医学部医学科卒業
2002年 大分医科大学(現 大分大学)医学部附属病院
2003年 Baskent University Ankara Hospital
2006年 昭和大学(現 昭和医科大学)藤が丘病院
2015年 東京警察病院
2018年 牧野リハビリテーション病院(現職)
【資格】
日本専門医機構脳神経外科専門医
日本認知症学会専門医
日本認知症学会指導医
日本職業・災害医学会認定労災補償指導医
日本脳卒中学会専門医
厚生労働省認知症サポート医養成研修終了 等




