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前頭葉の機能解剖と障害【高次脳機能障害|保存版マニュアル⑥】

  • 執筆者の写真: 医療鑑定研究会 中嶋浩二
    医療鑑定研究会 中嶋浩二
  • 5 日前
  • 読了時間: 6分
医学鑑定 後遺障害

■ はじめに


前頭葉は複雑な社会生活を送り、目標に向かって自分自身をコントロールする「脳の司令塔」の役割を担っています。


頭部外傷で、後頭部や頭頂部を強打したとき、反衝損傷を生じやすいのが前頭葉です。

※脳損傷のメカニズムはとても大切なので、ぜひこちらの記事もご一読ください。


さて、臨床の現場で、前頭葉の損傷による障害の本質は、単に「体が動かない」ことや「言葉が出ない」ことではなく、人間の高度な精神活動のネットワークが乱れることにあります。


つまり、エンジンの部品が壊れたのではなく、運転手が進むべき方向を見失ったり、ブレーキの踏み方を忘れたりした状態が前頭葉機能障害なのです。


前頭葉機能障害の例としては、


  • 同時に2つ以上のことをこなせない

  • 手順よく物事を進められない

  • やる気が出ない

  • 衝動的で抑制できない


などが挙げられます。


この記事では、前頭葉機能障害を理解するために、前頭葉の内部を3つの主要エリアで整理し、それぞれの役割をくわしく見ていきます。


ぜひ最後までお読みください。



■ 背外側前頭前野:遂行機能のコントロールセンター


前頭葉の背外側前頭前野(DLPFC)は、物事を効率よく遂行するための「論理的な段取り」すなわち「遂行機能」をコントールするエリアです。


遂行機能は、次の4つのステップから成ります。


① 目標設定: 何をすべきかゴールを決める。

(障害例:冷蔵庫に食材があるのに、何を作るか決められない)


② 計画立案: ゴールへの手順を組み立てる。

(障害例:料理の工程を逆算できず、すべて同時並行で進めようとしてパニックになる)


③ 目標に向けての計画実行: 計画どおりに動く。

(障害例:調理の途中で電話が鳴ると、料理をしていたこと自体を忘れて放置してしまう)


④ 効果的行動: 状況に応じて修正し、手際よく進める。

(障害例:火が強すぎても火力を調整せず、焦げるのをただ見ている)



背外側前頭前野を損傷した患者さんは、一般的な知能テストや記憶力検査では満点に近い数字を出すことがあります。


しかし、実際の生活や仕事の場面では「段取りが全く組めない」という深刻な困難に直面するのです。


知能という「道具」は揃っているのに、それを使う「段取り」ができない。

これが遂行機能障害です。


背外側前頭前野の役割と障害 画像
背外側前頭前野の役割と障害

論理的な計画を立てる背外側前頭前野に対し、次は私たちの感情と社会性との関わりが深い「眼窩面」へ視点を移しましょう。



■ 眼窩面:感情の制御と社会的行動


脳の底面、眼球のすぐ上に位置する眼窩面(眼窩前頭皮質)は、私たちの「感情のブレーキ」であり、「社会性を守る」領域です。


眼窩面が損傷されると、知的な能力は保たれていても、社会的な文脈を読み取る力が失われ、本能的な衝動を抑えられなくなります。


具体例をまとめると次のとおりです。


眼窩面の損傷による症状と具体的な状態 画像
眼窩面の損傷による症状と具体的な状態

情動コントロールの障害を「脱抑制」とも言います。


脱抑制があると、集団のなかで適応した生活を送ることが困難となり、個々の状態に応じた配慮が必要です。


外部への行動を制御する眼窩面の次は、脳の内部で「意思を動きに変える」内側面について解説します。



■ 内側面:意図と行動の懸け橋


前頭葉の内側面内側前頭前皮質)は、心に浮かんだ「やりたい」という意図を、実際の「動き」へと変換するプロセスを担っています。


ここは、思考のエンジンに火を入れるスイッチのような存在です。


内側面は、その役割によって大きく2つの領域に分けられます。


  • 背側領域: 背外側前頭前野や運動関連領域と密接に連携し、知的な課題や認知的なコントロールに関わります。


  • 吻腹側領域: 扁桃体や眼窩面と連絡し、感情に基づいた意思決定や情動処理に関わります。


私たちの行動は、以下の経路を流れるように伝わっていきます。


① 意思決定

② 行動の選択・準備

③ タイミング調整と出力準備

④ 実際の行動


この「意思決定から実際の行動への懸け橋」が機能しなくなると、動く能力はあるのに動こうとしない状態となってしまうのです。



■ アパシーについて


ここからは、少し専門的な解説をします。


前頭葉の障害で頻繁に遭遇する症状に「アパシー」があります。


臨床的には、意欲が出ず、感情が平板で、自ら行動を起こそうとしない状態のことです。


情動メカニズムには、


①情動・感情的処理

②認知的処理

③自動的活性化処理


の3つの処理過程があります。


それぞれに、この記事で解説した3つの領域が関わっています。


①は眼窩面

②は背外側前頭前野

③は内側面


が関与しているのです。


①の処理過程に障害が生じると、無感情なままに行動を行うか、行動そのものを喚起できなくなります。


②の処理過程に障害が生じると、行動に関する計画を立てることが困難となり、行動の遅れや行動を開始することができなくなります。


③の処理過程に障害が生じると、外部からの誘導があれば行動を開始できますが、自らは行動を開始できないという状態になります。

この「自動的活性化処理の問題」こそが、アパシーの中核的症状といわれています


アパシーの定義と中核症状 画像
アパシーの定義と中核症状


最後までお読みくださり、ありがとうございました。


今回は、前頭葉の機能解剖と障害について解説しました。


前頭葉機能障害を評価するとき、神経心理学的検査はとても有用なので、ぜひこちらの記事もご一読ください。


次回は、脳外傷による高次脳機能障害の評価で問題となりやすい「意識障害」について解説したいと思います。


意識障害を理解することはとても重要なので、ぜひ次回もお読みください。





執筆責任者:医療鑑定研究会 代表医師 中嶋 浩二


医療鑑定研究会 中嶋浩二医師

【略歴】

2002年 大分医科大学(現 大分大学)医学部医学科卒業

2002年 大分医科大学(現 大分大学)医学部附属病院

2003年 Baskent University Ankara Hospital

2006年 昭和大学(現 昭和医科大学)藤が丘病院

2015年 東京警察病院

2018年 牧野リハビリテーション病院(現職)


【資格】

日本専門医機構脳神経外科専門医

日本職業・災害医学会認定労災補償指導医

日本脳卒中学会専門医

日本認知症学会専門医

日本認知症学会指導医

厚生労働省認知症サポート医養成研修終了

日本プライマリ・ケア連合学会認定医 等



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