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  • 執筆者の写真医療鑑定研究会 中嶋浩二

脳外傷による高次脳機能障害で問題となる「意識障害」「外傷後健忘」について

(2020.9.2)

代表医師の中嶋です。

今回は,高次脳機能障害の後遺障害等級認定で争点となりやすい,「意識障害」について解説します。

最近の裁判例でも,受傷直後の意識障害がなかった,あるいは,意識障害が軽度で短時間しか認めなかったことが,高次脳機能障害を否定する根拠とされています。

そもそも,意識が障害されているとは,どのような状態を指すのでしょうか。

脳神経外科の教科書には,意識清明について,「自分自身や周囲のことが分かっている状態」との定義が紹介されています(脳神経外科学改訂12版,金芳堂,2016)。

これに基づき,有名なJapan Coma Scale(以下「JCS」といいます。)では,覚醒していても,自分の名前,生年月日がいえない状態はJCS 3,見当識障害がある(いま何月何日で,どこにいるのか,周囲の者がだれなのかわからない)状態はJCS 2と評価します。

意識障害のわかりやすい説明として,次のようなものがあります。

「意識には,①覚醒(さまざまな感覚器官が,刺激を受け入れる準備を整えた状態),②気付き(特定の対象や事象に向かう意識で,その対象からの刺激を受けて入れている状態),③自己意識(自分の意識そのものに向かう意識)がある。これらのいずれかに障害がある場合を意識障害という。」

例えば,開眼しているが,呼びかけても,こちらへ視線を向けることもないし,こちらが視線を合わせようとしても,ぼんやりと宙を見つめるだけで視線が合わない状態は,上記の「②気付き」が明らかに障害されているため,意識障害といえます。

医療現場では,患者さんが開眼していて,単純な受け答えができるというだけで,「意識清明」と評価されていることが,少なくありません。

上記のとおり,意識清明と評価するには,見当識が保たれていることを確認します。そのため,「今日は何月何日ですか?」「ここはどこかわかりますか?」「この人がだれかわかりますか?」と患者さんにたずねることは必須といえます。

意識障害に関連して,外傷後健忘の理解も大切です。

外傷後健忘とは,神経外傷によって「新規の学習と記憶再生の障害」が生じた状態をいいます。

例えば,交通事故で頭部を強打した患者さんが,救急車で来院し,開口一番,「私に何があったんですか?ここはどこですか?」とたずねてくることがあります。

私が,「事故に遭ったので救急車で運ばれてきたんですよ。ここは○○病院です。」と答えると,患者さんは「そうですか。」といって納得したように見えても,数分後に再び「私に何があったんですか?ここはどこですか?」とたずねてきます。

そして,このやりとりを短時間に何度も繰り返す・・・といったことは決してまれではありません。しかも,後日,患者さんは,このやりとり自体を思い出すことができません。あれほど,しっかりと受け答えしていたのに,全く覚えていないのです。

まさに,新規の学習と記憶再生の障害が生じている状態,つまり,外傷後健忘を認めていたといえます。

しかし,実際には,このようにわかりやすい例だけではありません。外傷後健忘が続いているときの特徴として,見当識障害があげられます。逆にいえば,見当識障害がないことを確認しなければ,外傷後健忘の終了を判断できません。

このことも,意外と知られていないので,診療記録を調査する際には注意が必要です。外傷後健忘の期間について,正確に評価されている例は,非常に少ないです。

以上,今回は,「意識障害」と「外傷後健忘」について解説しました。

(ちょっと一休み)

よく意外といわれますが,大学生のときはウインドサーフィン部に所属していました。サーフィンの板に接続した帆にたくさんの風を受け,海上を滑走する爽快感はいまでも忘れられません。

しかし,初心者のころは,何度も挫折しそうになりました。まず,海上に浮かべた板の上に立って,海面に横たわっている帆をロープで引っ張り上げるのですが,これが重い!なんとか,海面から持ち上がると,今度は急に軽くなるから,勢いで帆と一緒に後ろ向きに海へ落ちる。それを何度繰り返したことか。落ち込んでいると,先輩からは,冬に練習すると上達するから心配ない,といわれ,理由がわからず,不思議に思っていました。

さて,冬になり,同じように帆を引っ張りあげて,バランスを崩して,海へ落ちたとき,ウエットスーツのなかに大量の冷たい海水が流れ込んできて,あまりの冷たさに,自分でも信じられないくらいの速さで板によじのぼっていました。寒さで震えが止まりません。もう二度と落ちたくない。絶対に落ちるもんか。バランス!バランス!バランスーーーー!どうしてー!?どぼーん!つめたいよーーー!

その後,桜の咲くころには,海に落ちる頻度が激減していたことはいうまでもありません。(中嶋)


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