(2023.4.2)
代表医師の中嶋です。
今回は【高次脳機能障害】のなかでも問題となりやすい、「社会的行動障害」について在宅生活への影響を調査した文献を紹介します。
【文献】
今橋久美子、深津玲子、武澤信夫ら:社会的行動障害により在宅生活が困難になる要因の検討.高次脳機能研究 42(4): 459-465, 2022
■はじめに
高次脳機能障害のうち、社会的行動障害が強く出ている場合、日常生活の支援が困難になることがあります。
しかし、現在の障害支援区分認定調査では、支援が困難であることが反映されにくく、必要なサービスの利用基準を満たしていない人もいます。
そこで、社会的行動障害に焦点を当てた調査が必要となります。
しかし、症例報告がほとんどであり、実態が不明瞭です。
本研究は、高次脳機能障害で社会的行動障害を主訴とする相談事例を調査し、在宅生活の支援困難度を評価する指標を探ることを目的としています。
■実態に基づく社会的行動障害への対応と支援 の手がかり
社会的行動障害は、受傷/発症時年齢と調査時年齢の差が約10歳であるため、長期的な課題です。
社会的行動障害の転帰は、在宅で生活しながら一般就労、福祉的就労、アルバイト、施設通所、通学、手伝いなど多様であり、施設利用者の場所も精神科医療機関、障害者支援施設、介護保険施設、矯正施設など多岐にわたります。
社会的行動障害は、社会生活に支障をきたす行動変化をすべて含む雑多な概念です。
社会的認知を背景とした社会的行動障害が含まれるが、本研究で報告された症例の画像所見としては、前頭葉のみならず側頭葉、視床・基底核部、頭頂葉損傷が含まれることが確認されています。
さらに、損傷部位からの社会行動変化のパターンを予測することが困難で、社会的行動障害は、社会的認知以外の認知機能、あるいは心理社会的因子が影響を与える可能性があります。
社会的行動障害において、感情コントロールの障害、金銭管理が困難、アパシーが高頻度で見られます。
■在宅生活が困難な要因
「在宅生活者」と「施設利用者」を分ける因子として、認知症の行動障害の種類のうち、
・夜間行動
・ギャンブル
・拒食
・多飲・多食
・脱抑制
があげられます。
この結果は、入所施設での認知症患者の行動・心理学的症状について報告されたものと類似しています。
■課題
本研究の限界として、問題となる症状の抽出方法、調査対象の範囲、個人環境因子の捕捉があげられます。
社会的行動障害の定義は多義的で、個々の社会的行動障害の背景となる認知機能の検討までは検討できていません。
また、障害が重度の場合、支援拠点機関などを経ずに直接精神病院に入院する可能性があり、そのような事例については捕捉しきれていない可能性もあります。
個人環境因子についても、婚姻、同居家族の有無については分析に含めていますが、家計の状況の検討も今後の課題といえます。
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