【専門医が解説】頭を打った後の危険なサインとは?脳挫傷の症状・原因・後遺症のすべて
- 医療鑑定研究会 中嶋浩二
- 3 日前
- 読了時間: 8分

「転んで頭を強くぶつけてしまった」「スポーツ中に頭を打った」
こんな経験は、誰にでもあるかもしれませんね。
多くの場合は、たんこぶができて少し痛むくらいで済みます。
しかし、その「いつものこと」に、命に関わる危険が潜んでいるとしたらどうでしょうか。
頭を打った衝撃で、脳そのものが傷ついてしまう「脳挫傷(のうざしょう)」という状態があるのです。
「脳挫傷って、聞いたことはあるけどよく分からない…」
「頭を打った後、どんな症状に気を付ければいいの?」
この記事では、そんな皆さんの疑問や不安に、脳の専門家としてお答えしていきます。
脳挫傷は決して他人事ではありません。
また、交通事故による後遺障害の原因としても非常に重要です。
ぜひ最後までお読みください。
脳挫傷の危険な症状とは?頭を打ったらチェックすべきサイン
まずは、最も大切な「症状」についてです。
頭を打った後に、どのような変化に注意すればよいのでしょうか。
見逃してはいけない危険なサインを知っておくことが、何よりも重要です。
そもそも「脳挫傷」って何?
脳挫傷を理解するために、頭の中を想像してみましょう。
私たちの脳は、硬い頭蓋骨(ずがいこつ)というヘルメットのような骨に守られています。
そして、脳は豆腐のように非常に柔らかく、繊細な組織でできています。
交通事故や転落などで頭に強い衝撃が加わると、その勢いで脳が揺さぶられ、硬い頭蓋骨の内側に叩きつけられてしまいます。
このとき、脳の表面が傷ついたり、内部で出血したりするのが「脳挫傷」です。
簡単に言えば、「脳の打撲傷」や「脳の切り傷」のような状態ですね。
この脳のダメージが、さまざまな危険な症状を引き起こす原因となるのです。
直後から現れる危険な症状
脳挫傷の症状は、頭を打った直後から現れることがあります。
以下のような症状が見られたら、迷わず救急車を呼ぶか、すぐに脳神経外科のある病院を受診してください。
意識がおかしい
呼びかけへの反応が鈍い、ぼーっとしている
つじつまの合わないことを言う
眠ってばかりで、起こしてもすぐにまた眠ってしまう
激しい頭痛や嘔吐
時間が経つにつれて、どんどん頭痛がひどくなる
何度も吐いてしまう
けいれん発作
手足がガクガクと震えたり、つっぱったりする
手足の動きや感覚の異常
片方の手足に力が入らない、動かせない(麻痺)
片方の手足がしびれる
言葉の異常
ろれつが回らず、うまく話せない
言いたい言葉が出てこない
特に「意識がおかしい」というのは、最も危険なサインの一つです。
本人が「大丈夫」と言っていても、周りから見て少しでも様子がおかしいと感じたら、専門医の診察を受けることが絶対に必要です。
時間が経ってから現れる症状に注意
脳挫傷の怖いところは、受傷直後は何ともなくても、数時間から数日経ってから症状が悪化してくることがある点です。
これは、傷ついた脳がだんだん腫れてきたり(脳浮腫:のうふしゅ)、後からじわじわと出血が広がってきたりするためです。
「最初は軽い頭痛だけだったのに、だんだん意識がもうろうとしてきた」というケースは少なくありません。
ですから、頭を強く打った後は、少なくとも24時間から48時間は一人きりにならず、誰かに様子を見てもらうようにしてください。
もし症状に変化があれば、ためらわずに医療機関へ連絡しましょう。
なぜ起こる?脳挫傷の原因と治療法
では、脳挫傷はどのような状況で起こりやすいのでしょうか。
そして、病院ではどのような検査や治療が行われるのでしょうか。
ここでは、脳挫傷の原因と治療法について詳しく解説していきます。
脳挫傷の主な原因
脳挫傷を引き起こす原因は、私たちの日常生活の中に潜んでいます。
交通事故:車、バイク、自転車の事故による頭部への衝撃は非常に大きく、重症な脳挫傷の原因として最も多いものです。
転倒・転落:階段から落ちたり、脚立から転落したりする事故です。特にご高齢の方は、少し転んだだけでも脳挫傷を起こしやすいので注意が必要です。
スポーツ:ラグビーやアメリカンフットボール、ボクシングといったコンタクトスポーツや、スキー、スノーボードでの転倒も原因となります。
暴力:殴られたり、硬いもので頭を叩かれたりすることも、もちろん原因になります。
このように、年齢や性別を問わず、誰にでも起こりうるのが脳挫傷なのです。
病院では何をするの?~診断と検査~
病院に到着すると、まず医師が意識の状態や手足の動きなどを診察します。
そして、脳の状態を正確に調べるために、画像検査を行います。
脳挫傷の診断で最も重要な検査が「CT」です。
CTとは、X線を使って体を輪切りにしたような画像を撮影する検査です。
これにより、頭蓋骨の骨折の有無や、脳のどこに出血や損傷があるのかを、短時間で詳しく知ることができます。
(併せて読みたい記事:軽症の頭部外傷におけるCT施行基準について 「コツンとぶつけただけでもCT?」)
必要に応じて、「MRI」という、さらに詳しい脳の断面図を見ることができる検査を追加することもあります。

脳挫傷の治療法
検査で脳挫傷と診断された場合、その重症度によって治療方針が決まります。
治療は大きく分けて、手術をしない「保存的治療」と、手術を行う「外科的治療」の2つがあります。
保存的治療(手術をしない治療)
脳の損傷や出血が比較的軽い場合は、手術は行いません。
全身の状態を管理しながら、脳がそれ以上ダメージを受けないようにする治療が中心となります。
脳自身の回復力を最大限に引き出すための、いわば「守りの治療」ですね。
外科的治療(手術)
出血の量が多い場合や、脳の腫れ(脳浮腫)がひどく、脳全体が圧迫されて命に危険が及んでいる場合には、緊急手術が必要になります。
手術は「開頭(かいとう)手術」といって、頭蓋骨の一部を一時的に外し、脳を圧迫している血のかたまり(血腫)を取り除きます。
また、脳の腫れが非常に強い場合は、圧力を外に逃がすために、外した骨をすぐには戻さないこともあります。
手術の目的は、脳への圧迫を取り除き、これ以上のダメージを防いで命を救うことです。
どちらの治療法を選択するかは、画像検査の結果や患者さんの全身の状態を総合的に見て、脳外科医が慎重に判断します。
回復への道のり。脳挫傷の後遺症とリハビリテーション
命が助かった後も、脳挫傷との闘いは続きます。
残念ながら、脳は一度強く傷つくと、完全には元に戻らないことがあります。
そのため、さまざまな後遺症(こういしょう)が残る可能性があります。
ここでは、後遺症の種類と、回復に向けたリハビリテーションについてお話しします。
脳挫傷で起こりうる後遺症
後遺症の現れ方は、脳のどの部分がどれくらい傷ついたかによって、人それぞれです。
身体的な後遺症
運動麻痺:手足が動かしにくい、力が入らない。
感覚障害:触った感じが分かりにくい、しびれが残る。
構音障害:ろれつが回らず、言葉が不明瞭になる。
高次脳機能障害
これは、見た目では分かりにくいため、周りの人から理解されにくい、非常につらい後遺症です。
記憶、注意、感情といった、人間らしい高度な脳の働きに関する障害のことを指します。
記憶障害:新しい出来事を覚えられない、約束をすぐに忘れてしまう。
注意障害:集中力が続かない、ぼんやりしてミスが多くなる。
遂行機能障害:物事の段取りを立てて、計画的に行動することができない。
社会的行動障害:感情をコントロールできず怒りっぽくなる、自己中心的になる。
これらの症状は、ご本人もつらいですが、ご家族など周りの方の生活にも大きな影響を与えます。
「性格が変わってしまった」と感じるかもしれませんが、それは脳の傷による「症状」なのだと理解することが、ご本人を支える第一歩になります。
(併せて読みたい記事:【高次脳機能障害】社会的行動障害により在宅生活が難しくなる要因とは?)
(併せて読みたい記事:頭部外傷後の「注意障害」)
回復を支えるリハビリテーション
失われた機能を取り戻し、後遺症と上手に付き合いながら社会生活に戻るために、リハビリテーション(通称:リハビリ)が不可欠です。
リハビリは、さまざまな専門家がチームを組んで行います。
理学療法士(PT):「立つ」「歩く」といった基本的な動作の専門家です。筋力トレーニングや歩行訓練などを行います。
作業療法士(OT):食事、着替え、入浴など、日常生活に必要な応用的動作の専門家です。細かい手の動きの練習や、家事の訓練などを行います。
言語聴覚士(ST):「話す」「聞く」「飲み込む」ことの専門家です。言葉の訓練だけでなく、記憶障害や注意障害といった高次脳機能障害のリハビリも担当します。
リハビリは、根気のいる長い道のりになることが多いです。
しかし、専門家チームとご家族が協力し、ご本人の「できるようになりたい」という気持ちを支え続けることで、少しずつ回復していくことができます。
焦らず、一歩一歩進んでいくことが何よりも大切です。

まとめ
今回は、頭部外傷による「脳挫傷」について、症状から治療、そして後遺症とリハビリまでを解説しました。
頭を打った後、意識がおかしい、激しい頭痛、嘔吐、けいれんなどが見られたら、すぐに救急車を呼びましょう。
症状が軽くても、後から悪化することがあります。少なくとも24時間は慎重に様子を見てください。
脳挫傷は、交通事故や転倒など、誰にでも起こりうるものです。
治療後も後遺症が残ることがありますが、リハビリによって回復を目指すことができます。
頭を打つことは、決して「たいしたことない」ではありません。
この記事が、皆さんの脳挫傷に対する理解を深める一助となれば幸いです。
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